近年、幅広い現場で導入されているドローンは、土木建設分野でも測量や施工管理などで大きく活躍し始めています。地上からでは把握しきれない情報を短時間で収集できるため、人手不足や作業効率の向上が課題となっている建設業界にとって、頼もしいテクノロジーと言えるでしょう。しかしながら、ドローンを用いた測量には法令や規制の順守、機体や測量方法の選定など、事前に検討すべき点も多くあります。 そこで本記事では、「ドローン測量を行う際に知っておきたい基礎知識」をはじめ、実際の導入メリットや注意点、さらには今後の展望までを分かりやすく解説します。
土木建設現場でドローン測量が活用される背景
土木建設現場においてドローン測量が活用されている背景には、作業員の高齢化と担い手不足があります。建設業界は作業員(建設技能者)の平均年齢が高く、2021年の時点で60歳以上が約4分の1を占める状態になっていました。こうした状況を変えるために、建設業界ではICTの活用による生産性向上に取り組んでいます。
ドローン測量の普及も一連の取り組みの一つです。測量の省力化により、作業員の負担軽減や生産性向上に寄与することが期待されています。
参照元:国土交通省公式HP(PDF)(https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001493958.pdf)
土木建設現場でのドローン活用方法
土木建設現場では、主に以下の用途でドローンが活用されています。
土木工事を始める前の測量に
まず挙げられるのは土木工事現場の測量です。従来の人手による測量とは違い、上空からデータを取得するドローン測量が普及しつつあります。測量だけでなく、ドローンに関する知識や技術が求められるものの、ドローン測量ならスピーディーに測量することが可能です。
土木建設現場でドローン測量を行うメリット
土木建設現場にドローン測量を取り入れるメリットは、測量業務の効率を大幅に高められる点にあります。従来の測量は手間と時間がかかっていましたが、ドローン測量なら短時間で広範囲を測量可能です。何週間もかけて測量する必要はありません。
また、山林など複雑な地形の場所や、危険を伴う場所も簡単に測量できるのがメリット。測量士・測量士補が現地へ訪れる必要がなくなるため、事故などのトラブルのリスクを低減できます。
工事現場の施工管理に
施工管理にドローンを活用するケースも見られます。従来の施工管理は、担当者が直接現場まで足を運びますが、ドローンなら遠方でも状況を確認可能です。ドローンで撮影したデータをオンライン上にアップロードすれば済むため、本社にいながら施工管理が行えます。
建築物の点検に
建築物の点検にドローンを活用しているところもあります。住宅の屋根やオフィスの外壁などの状態を撮影すれば、劣化具合を簡単に判定できるのがメリット。目視では点検が難しい細部の状態もチェック可能です。
土木建設現場のドローン活用例
ドローン搭載3Dレーザースキャナで高精度測量を実現
鹿島建設は、ドローンに3Dレーザースキャナを搭載し、基準点を設置せずに短時間で高精度な測量を可能にしました。特に大分川ダムの測量では、高密度データを取得し、樹木がある場所でも正確な地表面の計測が可能です。この技術により、複雑な地形も短時間で効率よく測量でき、現場ごとの迅速な対応が実現しています。
ドローン測量の注意点
幅広い分野に活用できるドローンですが、ドローン測量を実施する場合は以下の点に注意しましょう。
さまざまな法律・規制の影響を受ける
特に気を付けておきたいのは法律です。ドローンはさまざまな法律と規制があり、状況によって適用されるものが変わります。例えば人口が集中している地区(住宅地など)でドローンを飛ばす場合、航空法に則った許可申請が必要です。もし飛行許可を取らずにドローンを飛ばすと、罰則を受けてしまうので気を付けておきましょう。
また、重要施設周辺を飛行する際は小型無人機飛行禁止法、道路を占有する時には道交法の影響を受けます。自治体によっては、条例で規制されている可能性もありますので、ドローン測量を始める前にしっかり確認しておきましょう。
精度は測量方法・使用機材で変わる
ドローン測量の精度は、実施する測量方法や使用する機材によって大きく変化します。公共工事など高精度な測量データが求められる場合、測量方法・機材は慎重に選びましょう。
ドローン測量の方法は、大別して写真測量とレーザー測量があります。高精度なデータを得られるのはレーザー測量ですが、費用も高いので注意が必要です。一方の写真測量は費用が安価な反面、カメラの性能で測量の精度が変わります。
立場別に見るドローン測量のメリット
ドローン測量は多様な関係者にメリットをもたらします。以下では、発注者・元請け業者・測量業者という三つの視点に分け、具体的な利点を解説いたします。
発注者(官公庁・自治体)の場合
出来形管理の効率化
ドローンを使って取得した詳細な三次元データを活用すれば、広範囲の出来形管理を短時間で正確に行えます。検査業務もシンプルになり、工期の短縮やスムーズなプロジェクト進行が期待できます。
記録のデジタル化と透明性向上
デジタル形式の記録は管理が容易で、後から確認したり分析に使ったりする際にとても便利です。発注者と受注者の間で情報が共有しやすくなるため、将来的なトラブルを防ぎつつ透明性を高めることができます。
元請け業者のケース
現場監督の安全確保と移動工数の削減
従来であれば危険な場所に立ち入らなければならない場面でも、ドローンを使えば上空や遠方から映像を得られます。現地の隅々まで一度に把握できるため、移動に費やす労力や時間も大幅に少なくて済みます。
進捗管理や工程調整の精度向上
工期中に定期的にドローンで撮影すれば、工事の進み具合を客観的なデータで捉えられます。それによって工程の調整や材料の手配、スタッフの配置がより的確に行え、最終的な品質向上にもつながります。
測量業者の視点
測量困難区域への柔軟な対応
山岳地帯や災害地域など、従来の地上測量では立ち入りが難しい場所でも、ドローンなら上空から安全に測量できます。業務範囲が広がることで、新たなビジネスチャンスの創出が期待できます。
短時間で効率的にデータ収集が可能
ドローン測量は一度に広範囲をカバーできるため、効率よく多数の案件を処理できます。結果的に人員や時間の負荷を軽減できる上、質の高いサービス提供によって受注につながるチャンスも増えます。
今後の展望と課題
ドローン測量は現状でも多くの可能性を秘めていますが、今後さらに発展するためにはいくつかのポイントがあります。
BIM/CIMとの連携
国土交通省が推進するBIM/CIMでは、建設プロジェクトを三次元データで一元管理し、設計から維持管理までを通して効率化することが狙いです。ドローンで取得した正確な点群データやオルソ画像をモデルに統合すれば、施工計画の策定や進捗監視、将来的なメンテナンス計画まで、あらゆる工程で情報を活用できます。これによりミスや手戻りを減らし、全体のコストダウンを図ることができます。
人材育成・スキル標準化
ドローン測量は技術面での理解だけでなく、法令遵守や安全管理の知識も欠かせません。企業や教育機関では、ドローン操作を含む測量技術やデータ処理ソフトの操作方法などを学ぶ研修や講習を行っています。さらに、業界全体でスキルの標準化や資格制度の整備が進められており、一定の技量を持った人材が増えることで、ドローンの利活用がより円滑になると期待されています。
ドローン×AI・3D解析技術の融合
ドローンが撮影した画像やレーザースキャンのデータをAIで自動解析する技術も徐々に実用化されています。たとえば、クラウド上にアップロードした写真を基に自動的に3Dモデルを生成し、土量や劣化箇所を迅速に割り出す仕組みは、現場の施工や維持管理の負担を大幅に軽減します。今後はクラウド連携がさらに進むことで、担当者同士がリアルタイムにデータを共有し、問題を早めに把握・解決するシステムが広がるでしょう。